2015年第Ⅳ号  ▲▽ 受験シーズンを前に ▽▲

登山の注意の一つに「ばてる前に食え」というのがあります。食べ物を消化・吸収するためには、消化器官にもエネルギーが必要ですから、登山のために使う手足の筋肉だけで全体力を消費してしまうと、いくら胃の中に食べ物を入れてもなかなか消化してくれず、回復が遅れてしまうのです。そこで、そうなる前にエネルギーを補給しろという教訓です。

人間の身体の防衛反応は外部からの脅威に対して、ストレスホルモンを分泌し安静時とは異なる体勢を作ります。外敵から逃げるためには、四肢の力が必要なので、ストレスホルモンは消化器官に分布している血管を収縮させ、血液の養分が腕や脚に優先的に届くようにします。運動不足の現代人にとって登山はかなり負荷のかかる激しい運動ですから、早めに栄養補給せずに長時間続けていると、ばてて動けなくなってしまうのです。

身体に備わっているもう一つの防衛システムは、体内に入り込んだ細菌やウイルスに対して働く免疫系です。免疫系が発動されると、エネルギーを大量に消費します。インフルエンザにかかった時、高熱が出てふらふらになることを思い出せば、おわかりになるでしょう。

ところが、先のストレスホルモンは、この免疫系の機能を縮小させます。高熱で寝ていても、家が火事になったら逃げ出さないと死んでしまいます。そんな時は、免疫系に向けられていたエネルギーを一次ストップし、危険回避のために走って逃げることにエネルギーを使うためです。

更に厄介なことに、ストレスホルモンは大脳の血管も収縮させてしまうため、特に前頭葉の活動を抑えてしまうのです。これも生命を維持する反射の中枢である延髄等を活発に動かすための仕組みなのですが、そのせいで人は緊急事態に際してパニックを起こしてしまうことがあるのです。

こうした知見は日々ストレスにさらされている現代人には重大な意味を持っています。

ストレスホルモンは一過性のストレスに対処するには有効ですが、長期にわたるストレスに対しては、甚だ不都合に働きます。消化不良を起こし、免疫力が低下して風邪をひきやすくなり、何かあるとすぐパニックに陥る。受験生を相手にしていると、毎年こうした生徒や保護者の方をたくさん拝見します。

そこでストレス耐性を高めることが必要になるのですが、だからと言って、常に最悪の事態ばかりを予想していては、日々のストレスを高めているだけです。短距離走で「位置について、ヨーイ」の体勢に入ったまま「ドン」の合図まで何ヶ月も耐え続けるようなもので、拷問でしかありません。

現代人のストレスの一番の原因は「恐れ」です。そしてその多くは悲観的に物を考える思考の習慣が原因と言えます。生徒諸君の習慣は、長くても十数年間に養われたものですから、中高数年間付きあっていくうちに改善できるのですが、保護者の方の習慣は数十年にわたって培われたものなので、率直に申し上げて厄介なものです。でも、館山塾に入ったのが運の尽き、ではなくて、運命の導きと思って、試しに悲観的に考えることを止めてみてはいかがでしょうか。特に中学受験で失敗した方にはお勧めです。最悪の事態になったらどうしよう、などと考えても憂鬱になるだけで、何の準備にもなりません。それよりは、今できることを考えて、実行に移すだけです。「恐れ」は頭がでっち上げた観念に過ぎません。目の前の現実の課題を一つずつ着実にこなしていくことが一番大切なことです。

最後の三ヶ月で伸びた人は全員が恐れを克服し、「今」を充実させた人ばかりです。結果は自ずとついてくるものです。

 

参考文献

『The Bionlogy of Belief』 Bruce H.Lipton