2009年度第Ⅳ期号  ▲▽ チェーンストア・パラドックス ▽▲

次の問題は、今年の慶應義塾大学商学部の論文テストに出題された4問のうちの1問です。ゲーム理論という、最近になって研究が進められている数学分野がありますが、そのトレーニング問題の一つです。ゲーム理論事態は難解なものですが、それが次第に洗練され、「ゲーム理論と経済行動」を著した二人の学者は1994年にノーベル経済学賞を受賞しました。それでは、ゲーム理論とやらをちょっとのぞいてみましょう。

 

[問題] 次の文章を読み、空欄にあてはまる数、言葉、文章を答えよ。

大手チェーンストアが、あちこちの町にすでに店を出しています。これに対抗して、零細小売商が、それぞれの町に同じ商品を扱う店を新しく出そうかと思案している場面を考えます。

零細小売商は、「参入する」か「参入しない」かを選びます。つまり、新しく店を出すか、出さないかということです。店を出さなければ利益は得られませんが、店を出せば利益が得られる可能性があります。しかし、零細小売商が仮に参入したとすれば、つぎに、大手チェーンストアが選ぶのは、「協調する」か「攻撃する」です。大手チェーンストアが参入してきた零細小売商と仲良くすれば、参入しなかった場合の利益100のうち、25は零細小売商に取られますが、75は維持できるものとします。一方、値下げ競争等を仕掛けて零細小売商を攻撃すれば、競争が泥沼化して、両者とも利益が-25に落ちて、損してしまうものとします。このような仮定のもとで、零細小売商はどう決断し、大手チェーンストアはどう反応するでしょうか。

 

という問題です。現実にありそうな話ですね。これをゲーム理論で解決していこうということです。この後は誘導形式になっており、特に専門的な知識も必要ありませんから、考えてみましょう。

 

零細小売商は、以下のように先読みするでしょう。まず、仮に自分が参入したとしたら、大手チェーンストアは自分の利益を考えて「攻撃する」より「協調する」を選ぶでしょうし、そうなれば、自分の利益は、「参入する」という戦略を選ぶと ア になり、「参入しない」という戦略を選ぶと イ になるはずです。このような先読みの結果、零細小売商は「  ウ  」という戦略を選ぶでしょうし、それを受けて大手チェーンストアは「  エ  」という戦略を選ぶでしょう。

 

わかったでしょうか。初めの文章の内容が理解出来れば答えられると思います。答えは、ア.25、イ.0、ウ.参入する、エ.協調する、です。さて、このような考えのもと、零細小売商は次々と参入していけば利益は上がり、大手チェーンストアの利益が損なわれますが、実際にそのようなことが起こるでしょうか。まずないでしょうね。大手チェーンストアは黙っている訳はなく、損失覚悟で攻撃するのは間違いないでしょう。損失するのに、なぜ攻撃するのか?、意地?、プライド?、いえいえ、最大利益のためなのです。だから、この理論は「チェーンストア・パラドックス」と言われます。では、問題を続けます。

 

これと同じ選択が、1つの町にかぎらず全ての町で行われれば、大手チェーンストアは利益を大きく損なってしまいます。そこで、大手チェーンストアが零細小売商にやられない方法を考えてみます。結論から言うと、大手チェーンストアは、零細小売商が「参入する」か「参入しない」かを選ぶ前に、「  オ  」と宣言しておくと良さそうです。…

ここまでがこの問題の一区切りです。この後、それでも零細小売商が参入した場合どうするか、また共存するためにはどのような方法があるかということを考える問題となっています。

 

ゲーム理論の分析は、いくつかの主体(この場合は大手チェーンストアと零細小売商)がそれぞれの目的を持ち、お互いに影響しあう状況のときに有効で、最適な戦略を決定することから経済活動にも用いられています。今回の話はその一部なのですが、おもしろく感じましたでしょうか。これで少しでも経済に興味を持ってくれるとうれしいですね。さらに、経済学、経営学にも数学の理論が必要だということを知って、今以上に数学を一生懸命勉強してくれれば、もっとうれしいです。

 

で、最後のオ.の答えは、「参入すれば攻撃する」です。いわゆる、脅しっていうやつですね。