2008年夏期号 ▲▽ 東大合格への道 ──塾講師の子育て論── 第二回 ▽▲

2008年 夏期号

 

▲▽ 東大合格への道 ──塾講師の子育て論── 第二回 ▽▲

胡子俊英

 東大の入試結果がわかりました。ぎりぎりでした。センター試験900点を110点に換算し、二次試験440点を加えた550点満点で、合格最低点341点に対して、息子の成績はわずか5点上回っているだけでした。それに比べると、原田君のお兄さん(2006年度)や守屋君のお兄さん(2005年度)は、合格者平均を遥かに上回っての合格でしたから立派なものです。

東大入試ではもう一回試験を行えば、半分位は合格者が入れ替わると言われています。紙一重のところにたくさんの受験生が集中しているということですから、わずかなミスが合否を分けます。これはどの入試にも言えることです。

そこで重要になるのが、ミスをしない集中力です。

集中力も実は忍耐力から

集中力と言っても、入試は長時間に渡ります。特に東大の二次試験は短い科目で100分、長い科目では150分もあり、しかも試験が二日間続きます。私立受験の人も、試験日が連日になることはよくあることで、集中力を持続させることが実は合否を決める一番重要なポイントになってくるのです。

となるとここで大切なのは、瞬発力よりは持続力、耐久力だということがおわかりになると思います。そして、学力を養う時に一番重要なポイントは、忍耐強く勉強に取り組む姿勢だということを考え合わせると、受験に強くなる第一の条件は、忍耐力だと言えます。

忍耐力特訓メニュー

我慢強い性格はどうやったら養えるのか。これはもちろん小さい時から親が接する時に、親の方が辛抱強く接するということが第一でしょう。幼い子供は何かと要領が悪いので、親がつい手を出したくなりますが、そんな時はぐっとこらえて見守ることに徹することで、子供の忍耐力はかなり養えるのではないかと思います。その上で私が実践したのは、登山に連れて行ったことです。

本当は忍耐力を養うためと思ってやったのではなく、単に私の趣味に過ぎなかったのですが、これが結果的にかなり有効だったと思われるのです。

自分の足で歩け

息子が小学校五年生の夏、北アルプスの常念岳(2857m)に登りました。コースタイムは五時間程度と書いてあったので、子供の足で倍かかっても夕方には小屋に着くだろうと計算していました。北アルプスのかなり本格的なコースでもあり、小学生は珍しく、たくさんの登山者達に、「頑張ってるねえ」と声を掛けてもらいました。そのうち、たくさんいた登山者達にはどんどん抜かれ、雨も降り出し、登山道には私達親子だけが取り残された形になりました。ところが、私の持っていた地図が古かったせいか、行けども行けども着きません。最後の地点から小屋まで一時間半と書いてあったのに、間違いなく三時間は歩いています。しかし、ここまで来たら、引き返す方が時間がかかります。朝からもう八時間は歩き続けていてへとへとですが、とにかく小屋まで行くしかありません。

雨で濡れた登山道は滑り易く、ここで足を傷めたら大変。「遭難」の文字が頭をよぎります。しかし、自分の足で歩いていく以外に、この場を乗り切ることはできませんから、甘い顔を見せるわけにはいきません。とうとう息子は泣き出しました。泣きたいのはこっちです。私一人ならとっくに小屋に着いています。こんなことなら連れて来るのではなかった。しかし、後悔しても始まりません。「泣いても小屋は近付かない。怪我をしないように気を付けて、しっかり歩け」と檄を飛ばしながら、小屋を目指しました。あのカーブを曲がったら小屋が見える、あの木の向こうに小屋があると何度思ったでしょう。とうとう、煙の臭いがして来たので、今度こそ小屋が近いぞと思ったら、幻聴ならぬ幻臭でした。それから更に一時間近く歩いてようやく本物の小屋が見えた時には、夕闇が迫っていました。

夏の山小屋のことですから超満員です。到着が遅かったので小屋は既にいっぱいでしたが、子供連れだと山小屋のバイトのお姉さんも親切にしてくれて、医務室の二階のわずかなスペースを見つけて入れてもらえました。

その後も、針ノ木岳(2821m)の凍結した雪渓や、越後三山の一つ、中ノ岳(2085m)で、滑落したら絶対助からない雪面をアイゼンもなしで下るという無謀な登山も経験しました。本当に命の危険に直面するという体験は、それまで眠っていたDNAのスイッチが入る感じで、原始の生命力に目覚める気がしました。この辺りの経験は、受験はもちろん、生きていく上での力になっているのではないかという気がしています。

子供の自立

息子と最後に山へ行ったのは、中一の時でした。その後は二人でどこかへ行くということもありません。受験に関してもあまり話をすることもありませんでした。後は私が直接関わるよりも、学校や塾の先生といった信頼できる指導者に任せた方がいいというのは、自分自身が中学・高校生だった頃の経験からも感じていました。幸い、中学(中野区立)、高校(国立)、塾(館山塾)といずれも良き指導者に恵まれ、息子は順調に育ってくれました。後は本人の責任で生きていってくれるものと思っています。私の目下の関心は、林住期に入った今、それにふさわしい生活を送ることです。おっと、まだ下の娘は中学に入ったばかりだということを忘れていました。もうしばらくは、世俗で頑張らねばならないようです。